2012年09月 UPDATE

これからの作業現場で必要とされる大工能力とは?

住宅ジャーナリスト・福原正則

高くしたはいいが、穴だらけ・・・。毎日、編集部の窓から東京スカイツリーが見える。それが未だに本来の目的を果たせていないという。先日報道で明らかになったことだが、来年1月に予定されていた東京タワーからスカイツリーへの電波塔の全面移転が、実際には春以降になるという。理由は電波が強すぎてテレビが映らなかったり、アンテナの方向が原因でテレビが全く映らない地域が、地域に関係なく穴ぼこのように発生しているからだ。

開業してはや半年。来場者は9月末までで、展望台に上った人が224万人だそうである。それよりももっとすごいのは、スカイツリーの付帯設備として人気スポットとなっているソラマチの来場者が2000万人突破したことだ。なんと日本国民の6人に1人が見物している。その経済効果も大きいだろう。地元商店街はさっぱりだというが、施設を抱える東武鉄道は9月の中間決算が大幅な増収増益となった。

そんなスカイツリーであるのに、本来の目的が果たせないというのは、まあ今日の社会風潮の縮図とでもいうべき構図である。素人目には、東京タワーより300メートル高いし、見晴らしもいいので障害物があっても電波は遠くまでちゃんと届くだろうという程度のことしか思わないが、設計した技術者たちもそんなことを心のどこかで思っていたのかもしれない。

そんな寓話は建設業界では日常茶飯事である。巨大地震が起きるたびに建築基準法が改正され、基準・規制が強化されて設計・施工責任が厳しく問われるようになる。そして地震が起きるたびに改正の成果が出る一方で、また新たな問題も必ず発生する。しかし木造住宅では依然として四号特例がある。これでは構造設計に対する設計者の意識にどこかで穴ぼこが生まれてしまう。

施工だって問題だが、国では大工人口の激減に対して、ようやく手を打ち出した。来年度から、木造住宅の担い手育成として大工・工務店の施工能力向上のための講習会を全国的に展開していくこととなった。特に大工技能の継承と低炭素・省エネ時代の住宅のための省エネ施工の技術習得などが主で、今年度は10億円近く予算化されている。

国では新築住宅の次世代省エネ基準の義務化を掲げており、2020年までに100%達成を目指している。その環境整備として「全国木造住宅生産体制強化推進協議会」と地方組織を作り、10月から地域の大工・工務店を対象に「住宅省エネルギー施工技術講習会」を各都道府県単位でスタートさせている。5年間で20万人の養成を目標にしている。小誌の予測では、このままの減少傾向が続けば、2020年には大工人口が21万人程度になると見ているが、それからすると“受講者20万”という目標はほぼ全ての大工に受講してもらわないことには達成出来ない数字であり、大きな目標だ。詳しくはhttp://www.shoene.org/を参照のこと。ホームページで受講受付も行っている。
講習内容を見ると、一日コースで(1)これからの住まいとしての省エネ住宅(2)断熱施工DVD放映(3)充填・外断熱施工(4)模型を使った断熱施工解説(5)断熱リフォーム(6)考査、という盛りだくさんな内容だ。1講座30分から1時間程度の講習で、どこまで内容を理解してもらえるか疑問だ。ただ受講修了証が発行されるので、今後何らかの活用も期待できるかもしれないので要注意だが、まずは啓蒙・注意喚起にはなるだろう。

しかし断熱材の施工については、以前から断熱材メーカー団体などが正しい施工方法の啓蒙・指導を進めてきたが、なかなか正しい施工が普及してこなかった。国が力こぶを入れだしたのは、制度的に次世代省エネを義務化しただけではだめで、正しい性能向上の実現は確実な現場施工にかかっていると理解したからだろう。ただ座学講習で正しい施工知識、手順をどこまで伝えられるかはなはだ心もとない。これもまた“穴ぼこ”だ。高断熱・高気密住宅などの高性能住宅を建設してきた人なら、断熱材施工時のちょっとしたピンホールでも結露の原因になることを知っている。木材を長持ちさせるために通風をよくしなければならないと教えられてきた伝統的な大工技能者に、壁体内をぴっちり隙間なく断熱材で満たして密閉しなければならない施工方法を果たして本当に理解させることができるのか。これまでの断熱施工の失敗は、隙間があって空気が流れたほうが木材にとって良いという、長年の習慣に起因しているかもしれないのだ。

大工技能の伝承、技能習得にしても、大工育成塾や全権総連等が多額の補助金を受けて育成しているが、その内容を見ると墨付けや手刻み、道具の手入れなどを集中的に学ばせるカリキュラムが組まれている。しかし、これらは今時の住宅生産にどれほどの重みをもつのかよく考えてみなければならない。伝統、歴史を学ぶという意味では正しいことかもしれないが、今時の住宅生産では、設計図はもちろんのこと、施主とのプラン提案の図面から、構造伏図、果ては現場で使う納まり図まで、全てCADを使って作成される。木材だって、合板だって、全自動機械プレカットで加工されて、現場に持ち込まれる。今や現場作業は、釘打ち機、インパクトドライバーでの取付け作業がほとんどである。ほとんど工場で切断、穴あけをしてくるので電動丸鋸やプレーナーは出番がなくなった。切断があるとすれば石膏ボードくらいで、これはカッターで簡単に切れる。そんなCAD・プレカット時代の木造住宅構法にあって、墨付けや手刻み、鉋や鑿の道具の手入れが本当に基本知識、基本作業となるのだろうか。

伝統的な大工仕事の基本は適材適所で木材を使うことだと思う。大工はそれらの木材と木材をつなぐのが仕事であったが、それさえも集成材の普及や金物工法の出現で実用上何も問題なくなっている。大工技能の新たな時代に突入しているのである。

 では、今後の職人不足時代の住宅生産を考えると、現場職人の基本技能としてどんなことが必要になるのだろうか。前述したように、これまで大工技能の大本として周りからあがめられていた木を加工する名人芸の技でないことは確かである。その部分は高精度・高速で加工するプレカットマシンにとってかわられた。名人の加工技術は機械ごときがかなうわけがないかもしれないが、それは宮大工が産業ではないのと同じように一般の建築現場では必要がなくなっている。

求められるのは現場で材料を受け取ってからのことである。まず現場に届けられたプレカット材、各種建材等の取扱説明書、組立図面を正しく読み取る読解力が必要だ。届けられたものが、送り状通りの寸法、加工形状、材種、数量かを確認し、それぞれの材料を何で何処にどう取り付けるかを取説、組立図で確認できる能力だ。そして材料を取り付けるための電動工具を用意し、使い方に習熟していること。また電動工具のバッテリーの予備や充電器を用意し、それらをいつでも使えるようにメンテしていること。作業現場の安全・衛生にいつも気を配り、整理整頓できること。そしてより良い大工となるためには、仕事を時間通りに行う作業モラルを堅持すること。さらに新たな能力として、スマホ等の情報端末活用などが強く求められるのではないか。

そうした、新しい作業スタイル、IT機器への対応力が現場施工者の技能となると思う。全国で始まった施工能力向上のための講習会。スカイツリーにならないようによくよく考えて活用しなければならない。