2013年12月 UPDATE

住宅関連の人材確保に道はあるのか?

住宅ジャーナリスト・福原正則

新政権が誕生して一年。経済再生を三本の矢を掲げてスタートすると、あれよあれよという間に円安、株価上昇となり日本経済が元気を取り戻したような気分になった。住宅業界で言えば消費税増税の決定で、駆け込み需要が一気に吹き出し、本当に忙しい一年となった。

しかし、住宅をはじめ建設業界は大問題に直面している。職人不足で現場が動かなくなっているのだ。これが年明け以降の見通しを一気に暗くしている。この欄でも今後の職人不足の深刻化について何度も述べてきたが、年末、年度末に向かって本当に現場が竣工できない事態があちこちで発生しそうだ。しかも、この人材不足は、現場職人だけでなく設計やプレカット工場の技術者など広範囲にわたってきた。

建設業界への若年入職さの少なさは国も認めるところで、現場技能労働者への対策にようやく本気になったところだ。少子高齢化が進むいま、今後あらゆる産業で人材不足の綻びが顕著になるはずだ。そうすると、消費税が10%になることよりも、こうした人口減少や高齢化による人材の不足が経済の足を引っ張りかねないと思うのだ。特に若年入職者の大幅減少の問題は深刻だ。どの産業でも現場に関わる要員の確保、育成はますます大切であるが、特に専門職となる職人や技術者などに若い人々をどう導いていくか、それが大変重要なポイントになってくる。

現実を見ると、入職者と退職者の数にはどうしようもないほどの差が生じてている。戦後生まれの団塊の世代と言われる世代(昭和22~24年生まれ)は1学年にざっと270万人いたが、来年成人を迎える平成5年生まれは118万人、最近は110万人を切っている。つまり単純に言えば、昔は1つの仕事に対して、今に比べて2倍、3倍の若い人材を確保できる可能性があったということである。その中で人々は現場で知識や技能を習得したり、修行したりすることが出来たわけである。今現場にいる60代、50代のベテランの人々は、そうした中で生き残ってきたエリートなのだ。

ところが、出生数は1980年代以降毎年150万人、バブル期以降は120万人をくだっていった。加えて産業は半数以上が三次産業化、サービス産業全盛期の時代を迎え、若い人たちはITをはじめとして新しい魅力的な産業にどんどん就職していった。勿論給料も高かった。そうすると工場や現場は、このころから3Kといわれ始めて、どんどん入職者が減少した。特に徒弟制度という旧態の教育システムしか持たない大工をはじめとする建築関連の専門職の現場は、最も大きな被害者となった。その後建設現場の職人のところへは、大学進学率の上昇と比例するかのように勉強嫌いや落ちこぼれが集まってくるようになった。と言っては業界に失礼になるが、多くが「サラリーマンになりたいけど、職人でもいいや、職人しかなれない」という、「デモシカ」が入職動機として増加したのではないだろうか。そして、今日の目を覆うばかりの技能不足と若年入職者不足を招いてしまった。

住宅では先ず基礎屋がいないという。大工も全然足りない。クロス屋も足りない。ビル工事でも型枠大工がいない、鉄筋工が足りないなど、全職種にわたって職人不足、そして若い職人がいないとなってきた。ただ建設業許可は28業種あるが、どの業種で職人や技能労働者が本当に不足しているのか明確なデータは無い。そうであれば、不足の度合いを知るには、逆に業種毎のデモシカ職人の割合を考えた方がわかり易いかも知れない。○○屋のデモシカ職人度はどうだろうかと考えれば、自ずと答えは出てこよう。たぶん予測としては、デモシカ職人度の高い職種ほど技能労働者不足度は高いと思うのである。

では大工はどうなのか。本当にデモシカ大工が多いのだろうか。俗に最近は大工=大九ではなくて「大五、大六しかいなくなった」、「墨付けできるのは10人に1人」などと言われる。確かに50年前の手作業の時代に比べればひとり一人の技術力の低下はその通りである。が、それ以上に大工に必要とされる技能教育の制度自体が全く機能しなくなった50年だった。建築大工技能士をはじめとして専門職の国家資格制度も整備されたし、職業訓練校も全国に整備されたのだが、それすらも最近は受検者も少なくなってきている。また、訓練校では大工関連の科さえないところが多い。そうした状況が今日の大工不足を生んできたのだと思う。

では、これから現場はどうなるのかという話であるが、職種の垣根を越えた現場での奪い合いが始まるのではないかと思う。

先日内装工事の技能士会で一級技能士の人と話をした。職人不足の話に及ぶと、彼は「これからは我々の時代だ」と目を輝かせて語るのだ。今後はリフォーム中心の時代であり、内装の仕事が大変重要になる。今時造作の出来る大工も少なくなった。間仕切や天井をちゃんと施工できる内装工の技術力はそれを代替する可能性がある、と言うのである。

確かに大手ハウスメーカーなどでは、鋼製下地材で間仕切りや天井を作るところが増えている。鋼製下地材の関連メーカーなどでは現場毎にプレカットした材で天井下地を簡単に組立てられるシステムの販売を始めている。いずれも省力化・コストダウンのためのシステムだが、現状では大工不足のお陰で需要がどんどん伸びている。軽天屋さんといわれる内装工事業種だが、国や業界団体が熱心に技能者の育成に取り組んだお陰で国家資格の内装施工技能士がたくさん育っている。内装工事はビル工事の最終工程に入る専門工事であり、いままでは前工程のしわ寄せを受けて赤字工事になったり突貫工事をさせられたりすることが多かった。しかしこれからは、内装の要の業種としてその技術力がビルだけでなく木造建築にも生かせるのではないかと言うわけだ。

一方で大工に今後そんな新分野があるのだろうか。現状では答えはノーだ。伝統的に言えば大工は躯体加工と組立てをするメインフレーマーの役と内部造作つまり内装工事の役割を持っていた。現在躯体の加工は90%以上がプレカット工場で担うようになった。大工の仕事は躯体の組立て、内部の下地工事、仕上げ工事のみとなった。そしてその他の設備、配管、電気、外装等の工事は全て専門職が行うようになった。また、この頃は大工さんがなかなか集まらないので躯体工事の建て方にも専門職が動き出している。大工工事なのか専門工事なのか曖昧な断熱材の施工なども、最近は断熱パネルなどのプレカット化が進み、専門に作業を行うところも出てきた。そうすると、木造住宅でさえも、ますます大工の手を必要としなくてもよい現場が増えているのである。

それなのに、現場では大工が足りないという状況が日々深刻化している。大工だけでなく他の専門工事でも同じだ。理由は、最初に説明したとおり職人の大幅な減少と若年入職者の不足であるが、前述の通り30年前と今では大工の仕事の中身が大きく変わっていることにも注目をするべきだろう。今時大工は鋸、鉋、鑿などの切削道具は現場でほとんど使う必要がなくなっている。たぶん持って行く大工も少ないと思う。必須道具は釘打ち機、インパクトドライバー、タッカーなどの留め付け道具だ。それほどまでに作業内容が変わっているのにもかかわらず、作業工程のイメージは昔のままである。それが大工不足、ひいては全体的な職人、現場技能者の不足感を増幅させているのではないか。

つまり、今後の職人不足への対応や新分野への進出について考えると、今ある職種の作業内容をもう一度吟味し、現代の工事内容に適合しているか、不適切で無駄な部分はないかを精査する必要があると思うのだ。30年前から比べると、専門工事職はほとんどが半数以下となっている。それでも生き残ってこられたのは、様々な新しい仕事を取り組んできたからではないのか。これからだって職人の生き残る方法は同じである。

内装工事の技能士だって、木造建築を目指す時代である。住宅に関わる大工だって、消費税増税後は新築市場が大幅に縮小するのであるから、人手不足以上に生き残りに必死なる。その時新分野に進出できるかどうか、そこに生き残りの道が隠されている。今の大工技能・技術でもこれから使えるものがあるのか、そして新たな分野を開拓できる知識・技能の習得が出来る能力を持っているのかが、職人不足対策、若年入職者増加へのカギとなると思う。