2014年11月 UPDATE

インフィルで木工に再び新しい価値が!

住宅ジャーナリスト・福原正則

日本の木材産業の衰退が激しい。特に家具、建具の業界は大変だ。これらは一括りに木工業界とかつて言われていたが、「木工」という言葉はすっかり聞かれなくなった。これらは住宅産業の一分野を大きく担ってきた業界だ。住宅産業は非常に裾野の広い産業であり、その波及効果は2.4倍あるといわれ、住宅産業は1960年代前後から大きく飛躍した。それに合わせて関連の家具、建具産業も発展した。しかしその後1970年代から人々の生活スタイルや住宅の洋風化、生産の海外シフト、海外生産品の流入など、様々な要因がかさなり木工業界は長らく低迷し続けてきた。15年前と今の全国の出荷高、事業所数を見てもそのことは明らかだ。家具や木製建具の出荷額は半減しており、事業所数も半減した。

また、その生産設備を供給してきた木工機械業界も同様に、それ以上の縮小を余儀なくされてきた。30年ほど前、日本の木材加工機械の生産高は工作機械の10分の1近くあると言われていた。当時、日本の工作機械業界は世界一ともてはやされ、1兆円の規模があったと思う。だから木工機械も1千億円近くの規模があったと記憶している。今ではユーザー業界の低迷で5分の1程度だろう。今後を考えれば、日本の木工業界や木工機械業界は、このまま縮小、消滅してしまうのだろうか。そういう疑問や心配、そして諦めが業界を覆っているのだろうか。

しかし筆者は、「木材加工はもう一度住宅と共に新しい産業として価値を生み出す」と主張したいのだ。その理由は、住宅市場や住宅生産が大きく変わろうとしているからだ。先ず住宅産業は新築からリフォームに大きく変わろうとしている。その理由の第一は人口減少が始まったからだ。国は非常に憂慮していて、もうすぐ8000万戸になる住宅ストックに対して、2、3年前から真剣にストック活用を促進する政策を次々と打ち出している。その大きな流れが中古住宅流通とリフォームの拡大だ。

そしてもう一つの大きな理由は、職人の急激な減少である。図らずも昨年の消費税増税の駆込み需要でこの事実があからさまに露呈した。これから本当に現場に職人がいなくなる。この欄で何度も述べたが、小誌の予測では2020年に大工数が2010年の半分になる。職人の減少は大工だけではない。その他の職種の減少も加速している。もちろん職人だけではなく、企業・事業所の減少も甚だしい。この平成8年から24年の間に建築工事業(木造建築工事業を除く)は増加しているのに、住宅生産の主役である工務店(木造建築工事業)は約半分に減少したのだ。その他の左官工事、畳などの伝統的な業種は軒並み大幅な減少となっており、これは住宅に携わっていれば日々実感することだ。

現場に職人がいなくなれば、住宅生産能力は一挙に衰える。いまそれを何とかしようと外国人の活用や企業での大工育成が動き出しているが、焼け石に水である。大工を中心にした現状のまま木造住宅の生産を続けたいのであれば、毎年最低でも1~2万人の大工入職者が必要である。しかし、現状は1000人以下であると思う。

そこで今、住宅関連、木材関連の業界では、大工がいなくても供給が可能な住宅生産の開発に本気で取組みはじめた。今見直されているのはパネル工法であり、国産での開発が始まったCLT(クロス・ラミナー・ティンバー)等である。また在来工法でも工場で壁面を構成する柱、合板だけでなく、断熱材、サッシ、胴縁まで組立てて現場に持ち込む工法を開発したところも出てきた。これなどは現場でも大工がいらない工法だ。さらに言えば、この20年の間にプレカット工場で木材を刻むことがほぼ100%になった。

そのため墨打ちや刻みができる大工が非常に少なくなったと言われる。構造躯体はすべてプレカット工場任せである。最近のプレカット工場の構造に対する技術力は、大工の能力に反比例してドンドン向上している。

これらの状況は何を意味するかというと、住宅の構造躯体は大工の手を離れて精度、品質のよい工場生産に移っていると言うことである。大工から躯体生産が離れてしまうと、どのようなことが今後起きてくるのかというと、躯体だけを供給する会社が多数生まれてくるということだ。つまり構造躯体=スケルトンが商品として成り立つと思うのだ。既にプレカット工場では、大工不足から建て方部隊を事業化しているところもある。こうしたビジネスが進めば今後の住宅供給は、スケルトン工事、内部造作工事、設備工事にと再編成されるはずだ。

ところが、まだ一切整備されていない部分がある。スケルトンはプレカット工場の対応や新たなパネル工法の開発などで環境が整いつつある。設備もメーカーが積極的に責任施工体制を作ってきた。内部造作工事は大工のテリトリーだが、その大工の減少を補うものは生み出されていない。つまりスケルトンに対するインフィル分野の考え方とその担い手が空白なのではないかと思うのだ。

しかし、大きく“インフィル”と叫んでみても、家の内部に取付けられるものや工事の内容はいままでと同じであるかもしれない。ただ、既存のスタイルでの内部造作工事では、家具や建具だけでなく、床、壁、天井にとりつけられるあらゆるものが衰退していくはずだ。その流れは、これまでの統計データを見れば分る。プラスにするためには、大工の仕事がスケルトンに切り替わるように、内部の仕事の範囲、製品、生産の仕組みなどを新しい概念で構築する必要があると思うのだ。

木製ガラス戸がアルミサッシに変わったように、住宅の内部ではタンスが収納に変わり、戸障子がドアにかわり、五右衛門風呂が給湯器とバスユニットに変わった。塗り壁もクロスになり、畳もフローリングになった。その中で1つだけ変わらなかったものは、何度も言うように大工であった。

その人達があと5年後には半減する。その時、だれが住宅の内部を供給する主役になるのかということである。

筆者の会社では、昨年から木造住宅のスケルトン分野を業界専門誌として「プレカットユーザー」を発刊、業界の皆様から好評を頂き、今秋には隔月発行に踏み切った。そして10月から「インフィル・テクノロジー」を出すこととなった。発刊の趣旨は、今述べたようなことだが、新たな分野を住宅に関わる皆さんと一緒に考えていきたいと思ったからである。死語となりつつある木工業界、家具・建具に関わっている人々が、インフィルという新たな産業の括りで再生出来れば、それは今後20兆円市場と期待される中古住宅流通、リフォーム市場でも共通のインフィル商品として認知されるに違いない。衰退の先には消滅しかないと思っていたものが、スケルトン、インフィルというくくりで見直すと、木材加工は本当に新しい産業として価値を生み出すと思うのである。

参考資料1:「建設業の減少」

参考資料2:工業統計調査「家具・装備品」