2010年09月 UPDATE

住宅性能に夏の蒸暑対策の視点が必要。

住宅ジャーナリスト・福原正則

今年の夏はとにかく暑かった。酷暑である。全国で夏日はおろか、猛暑日の記録を更新した。こんなに暑い夏は、誰も経験がない。冷房の利いた部屋が本当に有り難い夏であった。今年は明治31年の統計開始以来過去113年間で一番暑く、8月は平年に比べ北日本で2・7度、東日本で2・2度、西日本で2・0度高く、月平均気温の最高値を記録した。なんだ、2~3度しか違わないのかと思うかもしれないが、数字のマジックというやつで、実際の日中温度や体感的には、その倍以上5~6度高かったのではないか。また平均気温の1度上昇は、地理的に南に100キロ下がったのと同じだそうで、仙台当たりの気候は東京と同じで、それ以南の地域は九州と同じ気候である。省エネの地域区分で言えば?地区が今年は?地区になったということである。

今さら言うまでもないが異常気象である。ただ暑いだけなら何も問題ないが、熱中症で毎日全国で数百人が病院に搬送され、亡くなった人も四百数十人に達した。これも異常といえば異常だ。ニュースをみていると、死に至らないケースでも、老人や子供だけでなく多くの成人が室内で熱中症にかかっている。

狭いアパートの一室や築年数の古い廃築寸前のボロ屋で、風通しも悪く、冷房設備もないところならまだしも、テレビ取材の映像などを見ているとエアコンがあり、断熱材も入っている現代風の住まいで暮らしている成人も結構熱中症にかかっているケースがある。

住宅に携わるものとして、現代住宅の断熱性能が相当向上していること知っているつもりだが、今時の住宅の中で居住者が熱中症にかかるというのはどういうことなのか。違和感を感じるとともに、これまでの住宅づくりに欠陥がなかったのか、昨今の厳しい蒸暑に高断熱高気密の考え方が対応できないのではないかなど、いろいろと考えさせられる。

住宅性能は平成11年の次世代省エネ基準以降大幅に進歩した。今日の長期優良住宅の省エネ性能の基準もここに置かれている。しかし同基準による住宅建設はなかなか進んでおらず、五千数百万戸のストック住宅からみれば規準適合住宅はごくわずかである。しかも住宅省エネと言えば、日本では冬場対策、北国対応の性能技術であった。だから夏場の蒸暑対策は不十分なのだ。

それ故なのか、住宅性能が大きく進歩した今でも猛暑になると未だにエアコンや扇風機が売れ出す。今年はエアコンの売り上げが倍増、扇風機も三割増で、工場もフル稼働という。まあ景気の面ではよいことであるが、住宅産業にとってはありがた迷惑な話である。折角高性能な省エネ住宅やゼロエネルギー住宅、無暖房住宅を開発して、これからはエコ・省Co2の時代だと宣伝しているのに、猛暑になればエアコンがフル稼働しないと暮らせない住宅しか作れないことを証明しているようなものだろう。

ついでに言えば家電メーカーにも責任がある。本来的な意味で住宅設備として見るとエアコンはエアー・コンディショナーの機能を果たしていない。今時のエアコンの最大機能は、局所的に高能率で冷房、暖房することだろう。本来であればダクトを張り巡らせ集中管理して、初めて室内空気環境が整うと思うのだが(考え方は古いかもしれないが)、日本では?地区以降ではどんな高断熱・高気密タイプの住宅を作っても、現実的には1、2階の常時使用される各室にはエアコンが装備されてしまう。そんな室内環境で、「十分冷えたし電気代がもったいないから」と切ってうたた寝でもしたら、すぐ室温・湿度が上昇して熱中症への好環境が出来るというのでは、何の意味もない。それをさせないのが本来のエアコンの役目ではないのか。

それは、今日的な省エネ、省Co2住宅の普及発展の観点からみてよいことなのか悪いことなのか。答えは自明のはずであるが、夏場はどんなことをしても室内が暑くなるからしょうがないというわけだ。
しかし、その議論の中に住宅性能や蒸暑対策の技術・構造の視点が少なすぎると筆者は思う。日本のいまの気候は、南東北以降は亜熱帯になったとも言われるようになった。徒然草の昔から「家の作りようは夏をむねとすべし」であるから、暑さ対策、湿気対策が住まいづくりのポイントだった。一方現代住宅は寒さ対策を基本にして、住む人々の健康、長寿を促してきたことも事実である。

今夏の酷暑で、多くの人々が安全なはずの現代住宅の中でも熱中症にかかってしまうということは、これまでの家づくりが新たな地球環境に合わなくなってきたことを教えているのかもしれない。